2020(令和2)年度自主研究レポート

2020(令和2)年度自主研究レポート
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1.土砂移動シミュレーションに関する研究
(1) 土砂移動変動計算手法に関する研究
    本研究は、土砂・洪水氾濫対策を検討するにあたり使用される一次元河床変動計算をできるだけ簡易に計算する手法、ならびに計算結果から氾濫地点や氾濫範囲を推測する手法について調査・研究を行うものである。本年度は、平成29年の九州北部豪雨により乙石川で発生した土砂・洪水氾濫の実績データを用いてEXCELで再現計算を行い、現象の再現性や計算手法の適用範囲、運用上の留意点等をとりまとめた。
(2) シミュレーション技術を用いた新規業務開発に関する研究
    本研究は、これまで定量的な評価が困難であった流木による被害範囲の想定や砂防施設の適切な効果評価等を実現し、新規業務として開発・提案することを目標として、既存シミュレーション技術の改良および新規プログラム開発についての研究を行うものである。本年度は、土砂移動現象を対象とする現状のシミュレーションプログラムについて、実装している機能や元となる構成則について調査し比較した。また学識経験者・行政担当者・シミュレーションを実施する技術者に対してヒアリングを行い、今後改良・追加するべき機能について技術的可能性と必要性を整理した。その上で当財団が所有するプログラムについて内部構造の把握、機能の解説を行い、今後のプログラム開発の方向性と課題をとりまとめた。
2.新たな砂防工法に関する研究
(3) 土砂洪水氾濫対策の工法に関する研究
    本研究は、土砂・洪水氾濫対策として流路工区間に遊砂地を設置する際に、堆砂空間に効率的・効果的に土砂を堆積させるための工法を開発することを目的としたものである。
    本年度は、平成29年7月の九州北部豪雨による福岡県朝倉市のデータを参考として流量および流砂量を決定し、直線水路を用いて水理模型実験を行った。また、遊砂地内に横工を配置し、それぞれが堰上げや減勢にどのような影響を与えるかを検証した。この結果を用いて、福岡県が実施している「福岡県土砂・洪水氾濫対策技術検討会」に対して、遊砂地の設計方法を提案した。
(4) 透過型砂防堰堤の土砂捕捉機能に関する研究
    本研究は、鋼製透過型砂防堰堤に活用される礫径調査で、一般的な調査手法であるランダム法(土石流の痕跡と思われる礫堆積群を目安に、その堆積群の中から礫をランダムに選定する調査手法)の妥当性を検証する目的で、UAVを利用して河床の礫径分布と比較しどのような傾向が生じるかを検証するものである。
    本年度は北海道函館市の白浜川(流域面積2.1km2、渓床勾配1/10)と栃木県日光市の稲荷川(流域面積5.8km2、渓床勾配1/12)の2箇所を抽出し、UAVおよびランダム法による調査を行った。UAVによる礫径調査では、礫径加積曲線は滑らかな凸形状を描き、ランダム法による礫径調査では、S字カーブを描くといった特徴を示した。この結果から、ランダム法による最大礫径の設定が妥当であることを確認した。
(5) ワイヤーネットを用いた多様な土砂災害応急対策工法の開発に関する研究
    本研究は、土砂災害発生直後の応急対策工法の一つとして用いられているワイヤーネットについて、工期の短縮や重機等を極力使用しないで施工することを目標に新たな応急対策工法の開発を行うものである。
    本年度は、民間企業との共同研究として、①ワイヤーネットの両端を、現地発生土石を入れたコンテナ(鋼製)に接続して工期の短縮を図る「コンテナワイヤーネット工法(仮称)」について、特許共同出願したほか、②ワイヤーネットを用いた新たな工法の開発のための各種試験を行った。
3.土砂洪水氾濫対策計画における鋼製透過型砂防堰堤のあり方に関する研究
(6)土砂洪水氾濫対策計画における鋼製透過型砂防堰堤のあり方に関する研究
    本研究は、近年の鋼製透過型砂防堰堤の被災事例をもとに、土砂・洪水氾濫対策計画における鋼製透過型砂防堰堤のあり方を研究するものである。
    本年度は、令和元年10月の豪雨(昭和34年の伊勢湾台風により大規模な土砂・洪水氾濫が生じた災害時を上回る雨量を観測)により、2基の鋼製透過型砂防堰堤が被災した富士川砂防事務所管内の大武川流域を例として、砂防計画および施設配置に関する課題と解決策について研究した。砂防計画については、氾濫原における流路工の施設効果について、土砂・洪水氾濫シミュレーションにより、流路工の有無による通過土砂量の違いから、流路工の整備効果が高いことを確認した。また、施設配置については、上流域・中流域・下流域に分けて、設置目的に合った施設の配置及び構造について検討を行った。
    同程度の豪雨時を経験した事例を比較すると、より直近の豪雨による土砂災害被害の方が少ない事例が多く確認された。これは施設整備効果の発現によるものと推測される。
4.直轄地すべり対策事業における完了事例の研究
(7)直轄地すべり対策事業における完了事例の研究
    地すべり等防止法第10条により着手され、平成16年1月に策定された「完了目安」により直轄地すべり対策事業を完了した地すべり防止区域は「下嵐江(おろせ)地区」、「平根(ひらね)地区」、「赤崎地区」、「豊牧(とよまき)地区」、「黒渕(くろぶち)地区」、「芋川地区」、「入谷(にゅうや)地区」などが列挙される。
    これらの完了方法や考え方は、事業スケジュールの管理や必要な事業費を得るためのシナリオ作成に寄与するとともに、新規直轄事業の提案、事業採択時や事業のグランドデザイン作成時の基礎資料になり得るものと考える。
本研究では、 今後の直轄事業の進め方や完了への準備、新規直轄提案や事業評価時の基礎資料として、担当部局や担当実務者にとって有益な手引きとなる、各地区での共通事項や特性を系統的に取りまとめた「直轄地すべり対策の完了手順,及び事例集」を作成するものである。
    本年度は2ヶ年計画の2年目として、これまでに完了した7地区についての諸元等の整理結果を踏まえて各地区の完了判定における特徴を抽出し、「直轄地すべり対策事業での事例に基づく完了への進め方(案)」をとりまとめた。
5.土砂災害被害の解析に関する研究
(8)直轄地すべり対策事業における完了事例の研究
    本研究は、冊子「土砂災害の実態」を基に、近年の災害(増減)傾向などを把握しつつ、派生する何らかの法則性に関する仮説(気象要因や砂防行政政策等との関連等)を検証しながら、外力や事業の効果を推論する可能性を把握すること目的に実施したものである。
    本年度は、平成31年(令和元年)に発生した土砂災害について、人的被害等を再整理するとともに、土砂災害と気象要因や砂防施設の効果との関連性について分析を行った。平成31年(令和元年)は、土石流等やがけ崩れの土砂災害発生件数、死者・行方不明者数は前年より減少したものの、10年間平均値では引き続き増加傾向が確認された。また、土砂災害被害と気象要因や砂防事業効果との関連性について、直近10年間の3時間雨量と24時間雨量の最大値を同時に更新した地点を分析したところ、土砂災害により多くの人的被害が発生した地域と重なる部分が多数みられた。一方で、地すべり対策施設や急傾斜地崩壊対策施設の整備により、地すべり防止区域や急傾斜地崩壊危険区域が指定された箇所で、土砂災害発生件数や人的被害が抑制されている傾向が見られた。
6.透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究
(9)透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究
    本研究は透過型砂防堰堤の渓流環境への負荷軽減効果を確認するため、不透過型砂防堰堤と透過型砂防堰堤が設置されている渓流において、生物調査と物理環境調査を実施するものである。
    本年度は、生物調査として魚類を対象に直接採捕と環境DNA分析を、物理環境調査として水深、流速、浮き石率、底質調査を実施した。
生物調査の結果、透過型砂防堰堤は魚類の往来の経路としての機能を有していることが考えられた。また、物理環境調査の結果によれば、透過型砂防堰堤が流木や土砂を捕捉している場合、堰堤上下流の物理環境は不連続となる結果が得られた。
    本調査結果から、今後、透過型砂防堰堤の渓流環境への負荷軽減効果をさらに向上させるための方向性として、魚類の往来の経路としての機能に着目して改善策を検討することが必要であると考えられた。

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