2018(平成30)年度 自主研究レポート

2018(平成30)年度 自主研究レポート
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1. 土砂移動実態の把握とその解明について
(1) 土砂災害発生状況に関する研究
    本研究は、土石流災害時に緊急調査として、土石流による被害率を算定するための土砂堆積厚さ等に関するデータを蓄積するとともに、調査結果をSTCの技術力向上のための様々な解析に活用することを目的として実施した。
本年度は、平成30年7月豪雨により土石流災害の発生した広島県広島市及び熊野町を対象として、災害直後に行った現地調査により、土石流の土砂堆積厚の分布状況と家屋の被災状況を確認した。
(2) 火山地域における土砂流出に関する研究
    本研究は、火山地域における土石流対策で重要となる土石流ピーク流量とその流出土砂量の予測に資することを目的として、土石流発生源から土石流侵食(発達・流下)区間に至る土砂移動・流動特性とその縦断変化を把握し、土石流移動メカニズムならびに土石流ピーク流量と流出土砂量について分析するものである。本年度は、土石流発生頻度が高い桜島の野尻川と雲仙普賢岳の水無川を対象に過去の土石流観測結果と降雨状況の分析を行い、土石流ピーク流量の縦断変化に基づいて土石流の到達地点を把握し、保全対象に到達する土石流と到達しない土石流の発生降雨を検討し、降灰後土石流の雨量基準の基礎資料を得た。また、国内外における火山噴火後の砂防対策の概要を整理し、対策後の河床変動状況や対策工の効果の事例について分析して、今後の火山噴火後の砂防対策の検討に資する基礎情報を得た。
(3) 土砂災害の実態に関する研究
    本研究は、これまで国や地方自治体が実施されてきた土砂災害対策事業の事業効果(土砂災害発生数の減少、発生規模の軽減、人的被害の減少等)を、定量的に把握することを目的に実施したものである。
本年度は、当センターで発刊している「土砂災害の実態」に記載された土砂災害発生数や発生形態(土石流等・地すべり・がけ崩れ)を基に、土砂災害発生傾向や土砂災害による被害状況の発生傾向について整理・分析し、土砂災害対策事業効果について検討した。
2.土砂移動現象の分析と表現手法について
(4) 深層崩壊に対する減災対策に関する研究
    本年度は、土木研究所で抽出した深層崩壊に起因した施設被害の事例を基に、施設被害の有無、程度について前庭保護工を主に対象として検討を行った。また、新たな施設被害事例として、高知県で発生した深層崩壊に起因した土石流によって被害を受けた砂防堰堤の状況を現地において確認し、その被災過程等について分析を行った。
(5) 砂防基本計画に関する研究
    本研究は、砂防基本計画の対象現象として「大規模崩壊後の中期的な土砂移動現象」を位置付けるために、概念整理や中期の土砂移動現象に対する砂防設備の効果評価手法の検討を目的として実施している。
    本年度は紀伊半島を流れる新宮川水系神納川の一渓流(足谷)をモデル流域として、大量の不安定土砂が発生したH23台風12号災害以降の河床変動を一次元計算により試算した。計算期間を航空レーザ測量によって地形が把握されているH25からH29までの5年間とし、対象降雨の抽出手法やハイドログラフの設定方法、土砂供給方法について設定した。設定した条件で中期的な土砂移動現象のシミュレーションを実施し、計算結果と航空レーザ測量結果より推定した実績の流出土砂量・河床変動と比較して検証した。
(6) 噴火様式の違いによる火山噴出物の性状に関する研究
    本研究は、土砂災害緊急情報の第二報以降の雨量基準設定に関する検討のための基礎資料収集を目的として、火山灰特性(特に軽石の堆積密度)について現地調査および室内分析(最大・最小密度、粒度分布等)を実施したものである。対象とした火山灰は、北海道駒ヶ岳1929年噴火による軽石質の火砕流堆積物および樽前山1739年噴火による降下軽石堆積物から採取した5試料である。現地において簡易に計測した堆積密度の値は、室内分析で得られた値と大きな差異は認められず、現地での簡易的な計測でも十分な精度が得られることが確認された。またそれぞれの堆積密度は1.0g/cm3を下回るものから、上回るものまで試料により大きな違いが見られ、同じ降下軽石堆積物でも層準の違いにより値が異なっていた。これら堆積密度の違いは、軽石の粒径や発泡度の違い、鉱物片や類質岩片の含有などが影響していると考えられた。
(7) 土砂災害情報に関する研究
    本研究は、平成29年7月九州北部豪雨災害を対象に実施した住民アンケート調査結果ならびに空中写真判読、雨量解析結果を用いて、赤谷川流域における土砂移動の時空間変化について分析を行ったものである。分析に際し、土砂移動に関する異常及び川や沢の異常を見聞きした場所と時間の推移等を整理した上で、空中写真判読による崩壊発生位置と土砂移動状況ならびに解析雨量(気象庁)とを対比して、流域内の土砂移動と災害発生状況の時空間変化を推察した。さらには避難開始時刻等の避難実態および防災情報の発令状況をあわせて対比することで避難行動の課題等について抽出した。
3.砂防構造物に求められる機能と構造について(高度な砂防施設の開発)
(8)新たな砂防技術の開発に関する研究
    本研究は、鋼財、コンクリート、ソイルセメント等多様な材料を用いた新たな砂防工法を開発し、便覧の作成や改訂を通して技術の普及を行うものである。研究の推進においては、国土交通省砂防部、国土技術政策総合研究所、土木研究所、大学等の協力を得て研究会を設置し、開発・普及の方針等について意見交換を行っている。
    本年度は、29年度より開発を進めていた「既設の不透過型砂防堰堤に簡易に設置できる流木捕捉工」について、当センターの技術指導による現地施工実績データ等をもとに「流木捕捉工設計便覧(張出しタイプ編)」を作成した。
(9)不透過型砂防堰堤に流木捕捉機能を付加する方法に関する研究
    本研究は、昨年度考案したスクリーン型流木捕捉工の特性を、水路模型を使用して実験的に調べたものである。今年度は、前庭保護工と流路工での設置を想定し、土砂存在下での流木捕捉特性を調べた。その結果、流路工においては、流木は水面付近で捕捉され、開口部から礫が流れ出る様子が確認でき、無害な土砂を流下させ堰上げを緩和する機能を発揮していた。前庭保護工においては、従来の流木止めに比べて開口部が形成されにくい様子が確認された。これは、水の流れが跳水であり捕捉された流木が水面まで移動し難いことに起因していると考えられる。以上の結果より、新たに考案したスクリーン型流木捕捉工は、流れが整流された流路工での設置が適しており、閉塞を考慮した水通し断面が不要、もしくは小さくできることが示唆された。
(10)礫衝突に対する砂防ソイルセメントの変形特性に関する研究
    本研究は、ソイルセメントの供試体に鉄球を落下させ、供試体の凹みと鉄球の落下高から材料の吸収エネルギーを求めたものである。本年度は、基礎的なデータとして吸収エネルギーと材料の強度が比例関係にあることを証明するため、ソイルセメントの材料として砂を用い配合設計により1~6N/mm2の供試体を作成した。これに落下高を変えて鉄球を落下させ、供試体の凹み量を測定した。この結果、衝突エネルギーと凹み量には比例関係が成り立つことを証明した。
(11)火砕流による鋼製透過型砂防堰堤の耐荷性能に関する研究
    本研究は、鋼製透過型砂防堰堤が火砕流を捕捉したことを想定して、熱による材料強度の低下により堰堤が礫捕捉性能を維持できるか非定常熱伝導解析を用いて解析的検討を行った。鋼製透過型砂防堰堤は、土石流および流木を捕捉する目的で設置されるが、火山地帯に設置されている施設も多い。鋼材は熱伝導率が高く火砕流を捕捉後、材料強度の低下にともない構造物の耐荷性能も低下すること懸念される。解析結果より、堰堤の耐荷性能が時間とともに低下しても捕捉性能を維持しており、火山地帯での鋼製砂防堰堤の有効性を示唆した。

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