2025(令和7)年度自主研究レポート
砂防基本計画(100年計画)に関する研究
本研究は、砂防基本計画における短期・中長期土砂流出に関して体系的に整理し、事業期間100年程度を見据えた計画のあり方を検討するとともに、上流域に配置する施設の効果を定量的に評価するにあたっての課題整理と説明方法を検討した。
災害発生に結びついた短期・中長期土砂流出事例について、素因・誘因、被害形態・被害状況および災害対応等を整理し、対象流域の抽出を行った。対象流域は、直轄着手が比較的新しい流域、近い将来に直轄管理や県への移管が想定される流域、地震等による複合災害が想定される流域等に分類した上で、当面の整備および完了に向けた整備について流域特性を踏まえて課題を整理した。今後は、想定される災害シナリオの検討、土砂生産・流出ポテンシャルの低減および災害リスクの平準化を目的とした短期・中長期土砂流出対策を検討し、必要に応じて監視・観測計画を検討する。
渓流環境に配慮した砂防堰堤等に対する既設工法の実態
本研究は、令和4年度まで実施していた「透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究」で確認された3つの課題点、①堰堤直下の落差、②スリット部の高速流、③底版や水叩き上の浅い水深の解消を目的に青森県内の既設堰堤に施されている工夫の実態について現地で確認した。現地調査では、階段式魚道等の一般的な対策ではない工夫を実施している堰堤を対象に調査を行った。釜屋沢川砂防堰堤、前田野目川1号砂防堰堤、大辺田貝沢堰堤、鳴沢川1号堰堤の4基を対象に実施した。大辺田貝沢堰堤はスリット部の両岸に粗石を配置している工夫をしており、それ以外の堰堤は底版上に底面に粗石を設置した水路を設置する工夫がなされていた。対策箇所の流速分布を調査した結果、大辺田貝沢堰堤では、スリット中央部の流速の最大220cm/sに対して、粗石付近では、ヨシノボリ類の突進速度10cm/s以下となっており、スリット内の流速分布に多様性が見られた。効果的な工夫の検討のため、引き続き文献調査や全国的な事例調査を実施する。
能登半島地震により発生した斜面災害の分布と地震力の関係性に関する研究
本研究では、令和6年能登半島地震により発生した地すべりや崩壊等、斜面災害の分布と地震力の関係性を明らかにすることを目的とした。地すべりや崩壊が多数発生した国道249号を沿いの南北約10km×東西約30kmの範囲を研究対象として、有限要素法による三次元地震応答解析を実施した。当該解析の結果として算出される最大水平加速度と最大剪断応力について、その分布と地すべり・崩壊が発生した位置等との関連性を分析した。その結果、地震時に発生した地すべり箇所では、地すべり末端部(平坦な場所や谷部)に作用する水平加速度の大きさに対して、地すべり頭部(尾根部)では60%程度大きな値を示す傾向があった。また、最大剪断応力は地すべり末端部に作用する値に対して尾根部に作用する値が約20%大きな値を示す傾向があった。これらの結果を指標とすれば、今後発生するであろう大規模地震時に、地すべりや崩壊が発生する可能性が示唆される範囲の予測に加え、当該斜面の概ねの変位量や安定度の評価が可能となると考える。
降雨分布を考慮した土砂流出解析システムの構築
本研究は、降雨流出解析の時空間分解能と精度を向上させるとともに、過去の降雨分布等を気象モデルにより推定し、降雨と崩壊発生等の対応関係を分析することで崩壊の発生や生産土砂量の算定方法を考案することを目的として実施したものである。
降雨流出解析については過年度に構築した降雨分布を考慮した流出解析ができるプログラムを基に、解析の補助プログラム開発、解析の機能追加、入力の機能追加を実施し、任意の流域での分布型降雨流出解析ができるシステム(プログラム群)を構築した。解析の補助プログラム開発に際しては、土層厚や透水係数等の広域の計測が困難な解析パラメータの設定が課題になることを想定し、Sce-ua法により、特定の降雨イベントに対してパラメータを最適化するツールを作成した。
土砂・洪水氾濫によるゾーニングに関する研究
本研究は土砂・洪水氾濫災害の被害が及ぶ範囲についてゾーニングを行うことにより、土砂・洪水氾濫に対する効果的なソフト・ハード対策につなげることを目的として実施した。
本年度は近年発生した土砂・洪水氾濫災害の内、氾濫範囲が整理され、かつ氾濫状況を空中写真や現地写真から確認できる事例を10事例収集した上で、降雨規模、氾濫の原因(トラブルスポットの影響)、氾濫範囲(縦断方向・横断方向)および既存ハザードとの関係等を整理した。また、上記の整理結果に基づき、氾濫開始点や氾濫範囲の傾向について降雨規模やトラブルスポットの影響を踏まえて分析を行った。氾濫の原因については、トラブルスポットの定義を明確にした上で、トラブルスポットに起因する氾濫発生状況を整理した。また、氾濫範囲については横断および縦断方向への広がり方を河道中央からの距離、比高差および河床勾配に着目し、地形による規制の影響について整理した。さらに、既存ハザード(土砂災害警戒区域、浸水想定区域)と土砂・洪水氾濫の実績氾濫範囲との位置関係を整理し、既存ハザードとの重複の有無について、確認した。
降灰後土石流の流出規模や計画流出土砂量に関する研究
本研究は、噴火後に想定される降灰後の土石流の発生メカニズムおよび過年度の研究を踏まえ、噴火対応火山砂防計画における降灰後の土石流の流出規模や計画流出土砂量の考え方や設定方法を検討するものである。
本年度は、現行の降灰後の土石流の流出規模や計画土砂量の設定方法および過去の降灰後の土石流の発生事例の分析を行った。過去に検討が行われた富士山を対象に、計画流出土砂量の設定方法についてレビューを行った。富士山の計画流出土砂量の設定方法に際し、流出率や計画降雨規模の考え方の基となった有珠山(1977噴火)、雲仙普賢岳(1990-1995噴火)、三宅島(2000年噴火)の発生事例を対象にレビューを行った。その結果、流域特性によって降灰後の土石流の発生・流出特性が変化すること、土石流の発生期間が噴火の期間、堆積する火山灰・火砕流堆積物の量により異なることが明らかとなった。こうした噴火特性や土砂移動特性は、降灰後の土石流の計画流出土砂量の設定における移動可能土砂量と運搬可能土砂量の算出に必要となることを踏まえ、引き続き降灰後の土石流の事例の追加分析を行い、火山灰の影響を考慮した土石流の発生・流動メカニズムの研究を行う。
砂防分野におけるEco-DRR推進に向けた研究
本研究は、土砂災害リスク低減に寄与する方策の一つとして、Eco-DRR(Ecosystem based Disaster Risk Reduction)の考え方を実装できないか検討するものである。本年度は、植生を基盤とした砂防の対策事例(①山腹工、②グリーンベルト、③砂防樹林帯)を対象にEco-DRRの視点から見たときの各対策事例に期待される定性的効果について整理を行った。各対策事例について(1)防災・減災、(2)環境、(3)地域社会、の各側面から見たときの期待される効果および課題(定量的評価、合意形成等)について整理を行った。それらを踏まえた上で、都市域・中山間地での各対策の適用性について検討を行った。①は都市域・中山間地ともに現在の荒廃地の分布状況から適用性は低いものと評価した。②はある程度の空間を確保可能な都市域では有効と考えられ、中山間地においては人口の少なさから維持管理面で課題があるものと推察される。③は都市域・中山間地ともに砂防構造物により、ある程度の安全度が担保された地域において有効と考えられる。今後の展望としては、上記①~③の対策が実施されている箇所の地域住民等を対象にアンケート調査等を実施し、これら対策効果の定量化を検討していくことが望まれる。
個別要素法を用いたコンクリートブロック堰堤の安定性照査手法に関する研究
本研究は、設計手法が確立していないコンクリートブロック砂防堰堤について、個別要素法(DEM)を用いて安定性照査手法の検討を行うものである。
本年度は、矩形ブロックに加え突起を有するブロックについて、土石流流体力と礫衝突を作用させた場合の破壊メカニズムの検討を行った。R6年度検討において、土石流流体力が作用した際に、堰堤モデルが外力に抵抗するブロック群と抵抗に寄与しないブロック群の2つに分離することを確認したが、それぞれを「抵抗躯体」、「残置躯体」と定義し、抵抗躯体を構成するブロック群が、突起の有無や突起の高さで変化することが確認できた。また、外力が作用した時の限界流速については、矩形ブロックに比べ突起ブロックの方が大きく、突起高の違いについては、連続的に作用する土石流流体力の場合は突起高に比例して限界流速が大きくなり、礫衝突の場合は、衝突によって突起を介して下段ブロックに荷重が伝達する過程で回転モーメントが発生するが、その大きさも突起高に比例することから、限界流速が小さくなる傾向となった。
シミュレーションに関する技術開発及び操作性に関する研究
本研究は、シミュレーション技術を用いた新規業務の提案や既存業務の生産性改善のため、新規プログラム開発および既存シミュレーション技術の改良についての研究を行うものである。今年度は、昨年度pythonで開発した一次元河床変動計算プログラムをC言語に移植し高速化を図るとともに、複数の土石流モデルとフェーズシフトモデルとを組み合わせた単純斜面での計算により、底面抵抗や侵食堆積傾向へ与える影響について研究した。また都道府県での土砂・洪水氾濫検討のために一部簡略化したプログラムも別途作成し、当財団のホームページを通じて募集した数十社に対して配布し、さまざまな実地形で試算を行うことにより今後のプログラム開発や操作性の向上についての課題を収集整理した。
令和7年度 融雪型火山泥流への応用に向けた火砕流モデルの高度化
本研究では、火砕流の到達距離予測や融雪型火山泥流への質量・熱輸送予測の信頼性向上に向け、二層浅水流型火砕流モデル(Shimizu et al., 2023, Geophys. Res. Lett., 50, e2023GL104616)について、妥当性確認に先立つ前段階としてモデル特性の評価・整理を行った。火砕流は地表への堆積に加え、流動中に軽くなり二次的な噴煙柱(灰神楽)として離陸する過程も併せ持ち、到達距離は両過程の質量分配に強く左右される。定常解に基づくパラメータスタディにより、その質量分配が「堆積効果」と「周囲大気流入・熱膨張効果」の競合で整理でき、結果がシグモイド型のスケーリング則に従うことを明らかにした。これにより、火砕流到達距離予測の信頼性向上に向け、質量分配過程を適切に捉える重要性を示した。さらに、噴出物総量を火砕流堆積物量とみなして噴火条件を逆算する際に生じ得る誤差を、灰神楽への移行分を考慮して定量化する見通しを得た。火砕流堆積物と広域テフラの両情報を用いた条件設定・感度分析の枠組みとして、シナリオ設定やハザードマップ作成時の不確かさ整理、観測データ整備の優先順位付けにも資する成果と言える。
ネット系構造物の長期耐久性に関する研究
本調査は、ネット系砂防構造物の長期供用実態を把握し、恒久構造物としての適用可能性を検討することを目的としている。近年、強靭ワイヤーネットを用いた砂防構造物は、仮設的な応急対策としての利用が増加しているが、長期耐久性に関する知見不足から恒久利用は進んでいない。そこで、供用期間10~30年程度の国内事例を対象に現地調査を実施し、リングネットやワイヤー、支柱など各部材の損傷や腐食状況を近接目視により確認した。その結果、落石防護柵では長期間にわたり大きな損傷や腐食は認められず、機能維持が確認された。一方、流水環境下では軽微な腐食が見られ、環境条件に応じた対策の必要性が示唆された。以上より、適切な条件設定と防食対策を講じることで、ネット系砂防構造物は恒久構造物として活用できる可能性があり、今後はさらなる事例蓄積と性能評価が重要となる。
鋼製砂防構造物の長期耐久性に関する研究
本研究では、長期間供用された鋼製砂防構造物の摩耗損傷、腐食についての実態調査を行い、その調査結果の整理を行った。鋼製砂防構造物は、昭和40年代に開発され、これまで約6,000基以上の施工実績があるが、常時流水や中小出水などによる流砂や小礫衝突による摩耗損傷については、これまで実態調査が行われておらず、十分な知見が得られていない。そこで、経過年数の長い堰堤(概ね40年以上)を対象に、流砂や小礫衝突による摩耗損傷を調査し、鋼製砂防構造物の耐摩耗性等の長期耐久性の実態把握を行った。
まず、データベースから調査候補を抽出し、現地調査を行う対象を5~10基程度選定した。調査地は供用期間が概ね40年以上の堰堤が集中している有珠山周辺を選定した。対象堰堤の調査を実施し、腐食傾向などの調査結果をとりまとめた。腐食傾向の把握のため、今後も5年間隔等の定期的な経過観察が必要と考えられる。
透過性を有する応急対策技術の開発検討
本研究は、土石流・流木対策として活用可能な新しい応急対策技術を開発することを目的として実施した。本年度は、過年度に実施した水理模型実験の結果を踏まえ、応急対策技術としての要求性能および実現性を考慮して以下に関する検討を行った。
・模型を用いた構造仕様の検討
・FEM解析による耐衝撃性の検討
・組立方法に関する検討
・施工性、経済性等の検討
これらの検討により、本技術が一定の耐衝撃性を有することや、経済性を考慮した設置方法を確認した。また、本技術の施工方法や構造的な課題を整理した。
2024(令和6)年度自主研究レポート
大規模土砂生産後に生じる活発な土砂流出(中長期)に対する砂防事業の効果に関する研究
台風や梅雨前線等による豪雨時に大規模土砂生産があった場合は、生産された土砂の全てが一連の降雨(短期)で下流へ流出せずに大量の土砂が山地流域に残存することが多くみられる。このため、しばらくの間、活発な土砂流出が継続し、河川区間等において河床変動が数年間続く(中期)ことが懸念される。本研究では、上記のような中期土砂流出の実態を明らかにすることを目的として、モニタリング手法やデータ分析手法等の検討を行う。
本年度は、モニタリング手法の研究として、簡易設置型ハイドロフォンの開発を行った。簡易設置型ハイドロフォンは、コンクリートブロックにプレート型ハイドロフォンを取り付けたプレキャスト構造にすることで、災害直後など早期に設置可能で設置箇所の制限を受けにくくするとともに、破損した場合も取り換えが容易なものとした。また、データ分析手法の研究として、最上川水系立谷沢川をモデル流域として、流量、流砂量、河床材料、河床変動等の実績データを分析し、大規模土砂生産後の中期土砂流出の状況を精度よく再現できる計算モデルの構築及び計算条件の検討を行った。
地すべり機構解析及び効果評価におけるCIM活用事例の検討
地すべり分野におけるCIMの活用は特に設計・施工や災害直後の状況把握などの場面での活用は進みつつある。また、地すべり機構解析及び効果評価の段階における活用も直轄地すべりを中心に進められているが、本来の機能を十分に果たしているとは言えない状況に思われる。本検討は、STCが主に関与する地すべり機構解析及び効果評価業務におけるCIMの活用方法や、行政機関及び住民説明時における地すべりCIMを用いたプレゼンテーション手法の検討を行うものである。
本年度は昨年度までの検討に加えて、①「コスト(業務量・労力)」と「効果(理解促進・業務効率化)」「CIM利用者の立場」「業務の段階」を評価軸としたCIM活用における重要な点を明確化して整理を行うための二軸図及びマトリックスを用いた検討、②CIMにおける断面的な表現であるパネルダイアグラム機能活用の検討、③実際の時間軸を想定したアニメーション(動画)表現及びコマ数等の検討、④業務着手から概成・完了までの各段階における使用目的に応じたCIMモデル要素の組合せ検討と整理を行った。
降雨分布を考慮した土砂流出解析に関する研究
本研究は、降雨流出解析の時空間分解能と精度を向上させるとともに、過去の降雨分布等を気象モデルにより推定し、降雨と崩壊発生等の対応関係を分析することで崩壊の発生や生産土砂量の算定方法を考案することを目的として実施したものである。
降雨流出解析については過年度に検討した方針に基づき、分布型降雨流出解析システムの具体的な解析処理の内容と設定項目、入出力データの種類・形式・内容等の仕様を検討した上で、上高地流域を対象に表面流、地下水、河川に関してそれぞれ1つのモデルを構築して連結させ、降雨分布を考慮した流出解析ができるプログラムを構築した。3つの降雨イベントを対象として検証解析を実施した結果、いずれのイベントに対しても実績のハイドログラフを一定の精度で表現できることを確認できた。
流出解析の元データとなる降雨分布を精度良く把握するために、全国の既往出水の降雨について気象モデルによる再現性の可否を整理した。さらに、降雨分布に基づく生産土砂量を算定するための雨量と崩壊面積の関係分析を近年の崩壊事例(九州北部、広島)において実施した。
令和6年度 地震防災に関する研究
本研究は、能登半島北部において令和6年能登半島地震が斜面に与えた影響を数値解析により分析すること及び地震時に生じる大規模な崩壊の特徴を把握することを目的として実施した。
数値解析手法による分析では、国土交通省の直轄地すべりにおける既往の地震応答解析で採用された有限要素法を採用した。解析モデルの作成は、直轄地すべり災害関連緊急事業で対象となっている7地区と、大規模な河道閉塞が生じた場所を含む範囲とした。また、解析モデル作成の基本となる入力物性値は、当該地震時に観測された実地震動が再現出来るよう設定した。構築した解析モデルにて地震応答解析を行い、最大水平加速度や最大剪断応力といった地震動の分布と、地すべり、崩壊が発生した場所との関連性を分析した。
地震時に生じる大規模な崩壊の特徴の把握では、まず崩壊の多発した輪島市、珠洲市、能登町を対象に地震後のオルソフォトを用いて崩壊地を判読した。崩壊地の判読結果より、崩壊場所の加速度や震度、標高、地質等の特徴を整理するとともに崩壊形態についても分類を行った。また、複数の河道閉塞が確認された輪島市鈴屋川流域を対象に、河道に土砂が流出している箇所の河道閉塞発生の有無と起伏量、流域面積の関係を分析した。
砂防施設配置計画に関する研究
平成30年3月に砂防基本計画が改訂され、河床変動計算を用いて砂防計画を検討することとなった。現在検討されている土砂・洪水氾濫対策計画では、計画の考え方が従来の土砂収支によるものと変化することに鑑み、本研究では、土砂・洪水氾濫対策計画で用いられている河床変動計算を用いた場合の砂防施設配置計画に関する基本的な考え方について検討することを目的として行ったものである。
本年度は、これまで実施した計算結果を総括的にとりまとめ、砂防施設の配置が流域の下流端流砂量及び流域内の河床変動に及ぼす影響を定量的に評価し、短期的な出水に対する砂防施設の効果について考察を行った。今後は中長期的な土砂流出に対する砂防施設の効果について同様に検討した上で、砂防施設配置の基本的な考え方をとりまとめる予定である。
遊砂地の手引き化に向けた検討
本研究は、土砂・洪水氾濫対策として遊砂地を検討するための手引き書を作成することを目的として実施した。
本年度は、コンクリートスリットを利用した遊砂地を計画するケースを想定して水理模型実験を行った。実験では、8つのスリット形状に対し流量を変化させながら水深・流速を計測し、計測結果をもとに流量係数を算出した。実験の結果、流量が多量になることで、従来から設計で使用されている流量係数より大きな値が得られる可能性があることが示唆された。
さらに、過年度に収集した遊砂地に関連する既往文献や研究報告について、実験条件や設計・施工上の留意点を一覧にして取りまとめた。また、全国の施工事例の詳細の位置情報や効果事例を取りまとめた。
火山噴火時の緊急対策工の開発に関する研究
本研究は、火山噴火等に起因する土砂災害に対して、短時間で施工可能かつ安価な緊急対策工(捕捉工、導流工)の開発を行ったものである。過年度の研究では、既往のコンクリートブロックを用いた砂防堰堤に着目し、鉄筋挿入による一体化を図る方法を提案し、立体模型を使用して孔の配置等について検討した。
本年度は、過年度検討した一体化を図る方法の施工性について検証するため、実寸台でコンクリートブロックを製作し、据え付け試験を実施した。製作では事前に1基あたり3箇所φ54mmの孔を開けた型枠を製作し、ボイド管を差し込んだ後にコンクリートを打設した。製作した8基のコンクリートブロックにはいずれもひび割れや欠損等は生じなかった。据え付け試験では、2段および3段積みで千鳥状に配置した。孔の位置のズレを確認した結果、最大で23mm、最小で7mm、平均14mmであり、すべての状態でφ25の鉄筋を挿入することができた。ズレが最小であった孔では、φ25とφ19の合計3本を挿入することができた。これにより、ズレが少なければ鉄筋が複数本入れられることから、よりコンクリートブロックの一体化が期待できるものと考えられた。
砂防分野におけるEco-DRR推進に向けた研究
本研究は、土砂災害リスク低減に寄与する方策の一つとして、Eco-DRR(Ecosystem based Disaster Risk Reduction)の考え方を実装できないか検討するものである。本年度は、土砂災害発生のメインフィールドが山地領域であることから、森林生態系を基盤としたEco-DRRの適用性について検討を進めた。適用に際して、現状、次に示すような課題があることを明確にした。①森林の有する土砂災害に対する効果の定量化・技術としての基準化、②森林(主として人工林)の維持管理のあり方、である。上記①について、今後の調査・研究等による評価手法・技術の発展が望まれる。制度面では既存の技術基準に限定されずに、森林生態系の有する多面的な機能を総合的に評価するような指標の制定等が必要といえる。また、上記①に関連して、土石流緩衝樹林帯の適用可能範囲を樹木の倒伏限界による評価より検討を行った。上記②について、令和6年度より森林環境税及び森林環境譲与税の制度が開始されたことも踏まえ、今後より一層、国策レベルでの適切な森林の維持管理を図るための体制を構築することが重要であると考えられる。
個別要素法を用いたコンクリートブロック堰堤の安定性照査手法に関する研究
本研究は、土砂災害の対策工事等で建設されるコンクリートブロックによる仮設堰堤の設計手法が確立されておらず、不透過型コンクリート堰堤の設計手法を準用していることから、個別要素法(DEM)を用いてコンクリートブロック砂防堰堤の安定性照査手法について検討を行っている。
本年度は、滑動・転倒安定性に着目した検討を実施した。比較検討は前年と同じ剛体堰堤モデルと個別ブロック堰堤モデルを用いた。滑動に着目した検討では、剛体モデルが土石流流速8m/sでNGとなることに対して、個別ブロックモデルは一体化されていないため、各層で滑動し、土石流流速5m/sで最も重量が小さい最上段の3個のブロックが滑動しNGとなった。また、滑動を抑制する底面突起を設けた転倒に着目した検討では、剛体堰堤モデルが12m/sでミドルサード条件NGとなるのに対して、個別ブロック堰堤モデルは7m/sで土石流流体力に抵抗するブロック塊と抵抗に寄与しないブロック塊に分離し、安定性が低下することを確認した。
※R5年度の検討では、安定性照査の第一段階である沈下安定性に用いられる底面応力について、現行設計モデル(「剛体堰堤モデル」と言う)とブロック積み堰堤モデル(「個別ブロック堰堤モデル」という)を比較検討し、剛体堰堤モデルでは底面応力が一様分布となるため上流端や下流端に生じる最大応力が、個別ブロック堰堤モデルではブロックごとに底面応力が変化し、最大応力の発生位置は条件毎に異なり、その時の最大応力が1.2~1.4倍大きくなる可能性があることがわかった。
シミュレーションに関する技術開発及び操作性に関する研究
本研究は、シミュレーション技術を用いた新規業務の提案や既存業務の生産性改善のため、新規プログラム開発および既存シミュレーション技術の改良についての研究を行うものである。今年度は、昨年度開発したHLL法による一次元河床変動計算プログラムを改良し、複数粒径対応、土石流・掃流状集合流動における複数の侵食・堆積モデル、浮遊砂の非平衡計算、摩擦速度と沈降速度の比もしくは粒径を指定することによる細粒土砂の液相化(フェーズシフト)等の機能を実装し、単純斜面および実地形による試算により、コードのチェックと各土砂移動モデルの特徴把握を行った。また既存の一次元・二次元New-SASSプログラムの入出力を支援するツールの開発・改良を実施した。
令和6年度 火砕流モデルの高度化と融雪型火山泥流モデルへの応用
火砕流の到達範囲を決定する2つのメカニズム(上部低濃度流の低密度化による離陸、および、下部高濃度流の堆積による消滅)を統一的に評価可能な準2次元二層浅水流モデル(志水・小屋口 2022 JpGU)に対し、ピナツボ1991年観測データとの比較に基づいた妥当性確認を行った。本噴火は火砕流・噴煙柱・傘型噴煙を同時形成した複雑な噴火様式であったため、多様な観測データに基づく既存研究結果と矛盾のない噴火条件を設定した数値シミュレーションを行い、本モデルが実際の火砕流堆積物の厚さ分布を概ね再現できることを確認した(Shimizu & Koyaguchi 2025 JpGU)。また、本火砕流モデルを、浅間山を対象とした噴煙柱崩壊型火砕流による融雪型火山泥流シミュレーションに応用し、シナリオ検討を行った(酒井・志水・堀田 2025 砂防学会)。適用された融雪型火山泥流の土砂動態モデルは、上層乱流領域と下層層流領域の二層からなる泥流モデル(酒井 2024 JpGU)であり、従来広く用いられている洪水流(掃流砂・浮遊砂)モデルや、細粒土砂の液相化(フェーズシフト)を考慮した石礫型土石流モデルとは定性的に異なる。今後、従来の火砕流起源融雪型火山泥流モデルから高度化された点を明確化し、さらなる発展に繋げたい。
土石流・土砂流に対する二層浅水流モデルの比較
本研究では、土石流・土砂流の数値モデルに内在する不確実性の評価に向けて、一層浅水流モデル(宮本・伊藤2002)と二層浅水流モデル(高濱ら2004)の基礎方程式導出過程を整理・比較した。保存式については、一層モデルが流動深全域を鉛直平均化して得られる断面平均流速を取り扱うのに対し、二層モデルは水流層と砂礫層を分離し、層間のせん断応力や質量移動を考慮することで流速の鉛直分布をより詳細に表現できる枠組みを提供している。抵抗式に関しては、いずれも理想化された流速鉛直分布を仮定して導出されているが、動的せん断応力やクーロン摩擦応力に関する抵抗係数の非物理的挙動への対応方法に違いが見られる。侵食堆積速度式は両モデルとも江頭の式に基づくが、二層モデルにおいても層厚比を用いた一層的な近似が採用されている。これらの整理により、両モデルの主な違いは保存式に、共通点は抵抗式および侵食堆積速度式に現れることが明らかとなった。今後は、これらの整理をさらに深めた上で、モデルに導入されている仮定や近似が数値結果に与える影響の定量的評価を目指す。
鋼製砂防構造物DBのweb-GISプラットフォーム研究
本研究では、近年インターネット上で利用できる地図情報システム(web-GIS)の活用が進んでいることから、鋼製砂防構造物DBのweb-GISプラットフォーム化について検討した。
まず、web-GISの活用事例について、インターネットで公開されている、国、都道府県、民間会社の情報提供事例を収集・整理を行った。近年はweb-GISの3D技術が進展しており、例えば東京都が公開している「東京都デジタルツイン3Dビューア(β版)」のように3D地図に3D構造物モデルを表示する方法などが開発されており、そのプラットフォームに静岡県の砂防堰堤の3D構造物モデルが登録されており、その情報を活用することが可能となっている事例があった。
STCでは砂防鋼構造物研究会の鋼製砂防構造物データベースの管理を移譲されていることから、このDBの3D化について検討した。東京都デジタルツインで使用されているCesium GS社が提供する「CESIUM ion」等を利用すると施設の位置等の情報を3D地図に表示することができるが、現在のDBでは構造物の形状などを登録していないため、3D地形モデルに3D構造物を表示することができず、今後の活用に向けてDBに登録する情報として構造物の形状や3Dモデルなどを追加することが考えられる。
現時点では、有償のサービスであり費用対効果の面から導入が困難であると考えるが、将来的には広報活動だけでなく、維持管理の面からもweb-GISに対応する必要があると考えており、今後も継続して情報収集を行っていく。
ネット系構造物の恒久構造物としての手引きに関する研究
本研究は、砂防堰堤工事中の応急対策等に用いられるネット系構造物について、土石流対策(恒久構造物)としての適用性を確認する基礎検討(基礎調査、土砂捕捉事例の収集・分析による機能・性能の整理)を行った。
基礎調査では、ネット系構造物の構造種類(分類)等についてweb調査を行った。その結果、基礎構造は主にアンカー基礎、杭基礎、コンクリート基礎の3種類に分類され、捕捉面の構造は、主にワイヤーロープやネット(被覆金網)、リングネット等を用いて、捕捉面の変形(ブレーキリング等の緩衝材)によって衝撃エネルギーを吸収する機構が採用されていることが分かった。
ネット系構造物の機能・性能については、現地調査及び土砂捕捉事例の収集(メーカーへのヒアリング)・分析を行って整理した。その結果、ネット系構造物は捕捉面の変形によって衝撃エネルギーを吸収する性能と土砂を捕捉する機能を有するが、恒久構造物として土石流対策への適用を検討した(鋼製透過型砂防堰堤を比較対象とした)場合、①土砂捕捉前後で捕捉高さが変わってしまうこと、②捕捉面が変形するため後続の土石流の衝突エネルギーを吸収しきれない可能性があること、③洗堀によって基礎部が露出し耐衝撃性や堆砂圧等の静荷重に対する耐力が低下する恐れがあること、といった課題があることを確認した。
透過性を有する応急対策技術の開発検討
本研究は、土石流・流木対策として活用可能な新しい応急対策技術を開発することを目的として実施した。
本年度は、過年度に立案した水理模型実験の実施方針に準じて詳細な実験行程を検討し、新しい応急対策技術の耐荷性能および捕捉性能に関する水理模型実験を行った。実験の結果、土石流を捕捉する構造物について、透過性を有する部分の比率が大きいほど、耐荷性能・捕捉性能が向上することが確認できた。また、満水時もしくは越流時において、特に構造物が不安定化する傾向があることが示唆された。
渓流環境に配慮した砂防堰堤等に対する既設工法の実態整理
本研究は、令和4年度まで実施していた「透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究」で確認された3つの課題点、①堰堤直下の落差、②スリット部の高速流、③底版や水叩き上の浅い水深の解消を目的に青森県内の既設堰堤に施されている工夫の実態を整理した。
事例調査は砂防施設点検台帳の写真や構造図を用いて実施した。常時流水のある施設を対象に調査した結果、常時流水がある透過型砂防堰堤57基のうち工夫がみられた施設は15基あった。
落差に対する工夫では、主に魚道により対策されていた。スリット部の高速流に対しては、スリット部底面等へ礫を設置している工夫があった。底版や水叩き上の水深の確保では、水叩き上に溝や壁を設置して水深を確保する工夫があった。
本研究により確認された事例のいくつかは構造図に記載されておらず現地写真からのみ確認できた例もあり、工法自体や工法の考え方等がわかる資料が残っていない可能性が考えられた。このため、今後、既往の工夫をさらに発展させていくためには、工夫の有効性について検証することとともに、過去の事例についてさらに調査して考え方等を資料としてまとめていくことが必要と考えられた。
2023(令和5)年度自主研究レポート
大規模土砂生産後に生じる活発な土砂流出(中長期)に対する砂防事業の効果に関する研究
大規模な土砂災害が発生した場合、生産された土砂の全てが一連の降雨(短期)で下流へ流出せずに山地流域に残存する場合が多い。このため、活発な土砂流出が継続し、下流の河床変動が数年間続く(中期)ことが懸念され、これら残存した土砂の流出に伴う被害を防止するための対策が必要となる。本研究は、このような中期土砂流出の実態を明らかにすることを目的として、モニタリング手法、データ分析手法等を検討する。
本年度は、最上川水系立谷沢川流域等 3 流域においてインターバルカメラを設置し、濁りが発生するタイミング等を観測した。また、RGB 単位ベクトルを用いた画像解析を行い、水位データや濁度計データとの比較を行った。
FEM 解析による地すべり活動休止中の地すべり安定度と臨界安定度の予測に関する研究
本研究は、FEM 解析による安定度評価手法を活用して、地すべりの変位と安定度の関連性を分析し、地すべりの現状の安定度とその臨界安定度を分析・予測する新たな手法の開発を目的としている。
本年度は、地すべり動態や地下水位観測データが取得されている秋田県横手市の地すべりを対象に、現地踏査による土質性状の確認、粘性パラメータや変形係数等による感度分析を行った。また、局所安全率や残留変位、せん断ひずみ、最大せん断応力等の時系列変化を整理し、地すべり変位との関係を分析した。その結果、せん断ひずみの変動の平面分布や地すべり変動前後の局所安全率の変化を示した。
地すべり機構解析及び効果評価における CIM 活用事例の検討
地すべり分野の CIM の活用は、地すべりの挙動が土中であることから機構解析及び効果評価において期待されているが、現状において十分に活用しているとは言えない状況にある。これは、CIM をどういう場面で活用するかという整理、また分かりやすい表示という点にも原因がある。
このため、本年度は地すべり CIM に関する既往検討のレビューを実施し、対象者の理解段階に応じて示すべき情報を整理した。それらを基に、①主題に対する表示内容の組合せ、②抑止工効果や地下水位変動の表現方法、③分かりやすさについて検討し、理解し易い表現方法を提案した。
降雨分布を考慮した流出解析システムの構築
本研究は、土砂・洪水氾濫対策検討等において、降雨分布を考慮した流出解析を行うためのシステム構築を目的としたものである。
本年度は、分布型降雨流出解析の必要性について再整理し、分布型降雨流出解析の活用方法、システムの基本構成と必要費用の再整理、構築の年次計画を検討した。
新たな生産土砂量の算定の検討調査
本調査は、砂防計画において、計画生産土砂量(崩壊土砂量)を適切に算定するために、近年の災害データを基に新たな生産土砂量の算定式を検討するものである
本年度は、前年度の姫川流域に続いて、筑後川右岸(平成 29 年九州北部豪雨)と広島西部山系(平成 30 年 7 月豪雨など)を対象とし関係分析を行った。検討において、素因(地形・地質)の影響についても分析した。なお、降雨指標については、災害時の降雨レベルが地域ごとに異なることから、発生確率年で評価した。
砂防施設配置計画に関する研究
平成 30 年に砂防基本計画が改訂され、河床変動計算を用いて砂防計画を検討することとされている。本研究は、土砂・洪水氾濫対策計画で用いられている河床変動計算手法を用いて、砂防施設配置の効果に関する基本的な検討を目的として行うものである。
本年度は、2つのモデル流域を対象として、砂防施設の配置や計算条件を変化させ、短期的な洪水に対し砂防施設の効果がどのように変化するかについて検討した。今後は中長期的な土砂流出に対する施設効果も検討し、砂防施設配置の基本的な考え方をとりまとめる予定である。
気象モデルを用いた既往降雨の再現に関する調査
本調査は、過去の顕著な豪雨災害を対象に、気象モデルを用いて詳細な降雨分布の再現を行い、崩壊発生との対比や降雨流出解析に用いることで、関連研究(新たな生産土砂量の算定の検討、降雨分布を考慮した流出解析システムの構築)の精度向上を目的とするものである。
対象流域は天竜川流域で、「昭和 36 年梅雨前線豪雨(三六災害)」を対象とした。気象モデルの計算に用いる長期再解析データとして今回は「JRA-3Q」を用いた。
今年度は、基礎的な計算を行い、再現した雨量データと実績の雨量データを比較し、再現精度について確認した。
遊砂地の手引き化に向けた検討
本研究は、土砂・洪水氾濫対策として遊砂地を検討する際の手引き書を作成することを目的として実施するものである。
本年度は、初年度として遊砂地に関連する既往文献や研究報告を収集し、遊砂地の定義や遊砂地の実態について整理した。また、次年度予定の水理模型実験の実施内容を検討し、模型の制作を進めた。
透過性を有する応急対策技術の開発検討
本研究は、土石流・流木対策の新しい応急対策技術を開発することを目的として実施する。
本年度は、既往の代表的工法の構造的な特長を整理し、開発目標や条件(透過構造・重力式構造物で捕捉を目的とする、浮力の影響が少ない等)を整理した。また、発災後に迅速に搬入できるよう市場性が高い建設資材(敷鉄板等)の活用を主眼とする。
そして、今後実施予定の水理模型実験について検討し、実験準備を行った。
火山噴火時の緊急対策工の開発に関する研究
本研究は、火山噴火等に起因する土砂災害に対し、短時間で施工可能な緊急対策工(捕捉工、導流工)の開発を目的としている。過年度の研究では、緊急減災計画における外力の考え方、限られた施工期間で効率的に対策効果を発揮できる考え方、コンクリートブロックによる砂防堰堤の課題等を整理した。
本年度は、過年度に検討したH形鋼を建て込む構造について、長所と短所を整理した。また、コンクリートブロック砂防堰堤の一体化を図る方法として、ブロックに孔を開け鉄筋を挿入する方法を検討した。
砂防分野における Eco-DRR 推進に向けた研究
本研究は、土砂災害リスク軽減方策として、Eco-DRR(Ecosystem based Disaster Risk Reduction)の可能性を検討するものである。近年、気候変動に伴う気象災害の激甚化等を踏まえ、Eco-DRRが国際的に注目されている。
本年度は、過去に砂防事業として実施された Eco-DRR に類似したハード対策事例等の文献調査を行った。そして、砂防分野に Eco-DRR を導入する際の課題を抽出し、土石流対策として具体的な Eco-DRR(ハード対策)を一部検討した。
地震時の斜面崩壊メカニズムに関する基礎的研究
本研究は、地震動に起因する斜面崩壊の基礎的研究として、崩壊に影響する地震の特性等(震度、加速度、速度、周期、継続時間、震源距離、直下型と海溝型の差異、地質構造など)の実態整理を行う。
本年度は「震度 6 強以上を記録した平成以降の地震」を対象に、土砂移動現象の実態と KNET 等の地震動データを収集し、関連する既往文献もあわせて収集した。そして、顕著な土砂災害発生時の加速度スペクトルの卓越周期等の震動特性について解析を行った。
シミュレーションに関する技術開発及び操作性に関する研究
本研究は、河床変動シミュレーションに係る業務に資するための既存シミュレーション技術の改良および新規プログラムの開発を行うものである。
本年度は①流木による橋梁閉塞による被害想定のため、水理模型実験を実施し、閉塞形状や流木濃度と閉塞確率との関係などを解析した。一方、有限体積法の一種である HLL 法による一次元河床変動計算プログラムの開発に取り組み、上記の河道閉塞による水位上昇を検証した他、土石流・掃流状集合流動における侵食・堆積速度式の比較とパラメータの違いによる計算結果への影響を確認した。
火砕流モデルの高度化と融雪型火山泥流モデルへの応用
本研究は、既往の大規模火砕流の 2 次元二層浅水流モデルを用いて、1991 年にピナツボで発生した火砕流の氾濫計算を行い、実績との比較を行い妥当性を確認した。噴出率や噴出継続時間などの供給条件は観測データからの推定値を、地形データは噴火前の測量に基づく紙地形図から作成した。その結果、堆積範囲の実績を概ね再現できることが確認したが、一部の谷埋め部については十分に再現できなかった。今後、砂防で広く使用されている宮本ほか(1992)の火砕流モデルについても妥当性を確認し、融雪型火山泥流モデルへの応用を検討する予定である。
砂防施設の損傷事例と解析、補修方法に関する基礎的研究
本研究は、鋼製構造物や砂防ソイルセメントなど STC が関与してきた分野に限定して、被災事例を参考に損傷した場合の被災原因の推定や復旧方法等を整理し、今後損傷が生じた場合の対処方法の手順を取りまとめることを目的としている。
今年度は、国内外の設計基準等を収集し、損傷時の対応(点検、評価、対策)を整理した。次にFusion360 を用いて実際に損傷が生じた舛玉第 2 砂防堰堤を対象に、損傷状況について逆解析を行った。その結果、再度災害を防止するために、流木による透過断面の閉塞を防止することが有効であり、捕捉した流木が鋼製高の 1/2 高まで堆積した時点で除木すると良いことがわかった。
透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究
本研究は、透過型砂防堰堤の渓流環境への負荷軽減効果(渓流の連続性を確保する機能)をさらに向上させるため、堰堤構造(底版やスリット部)の改良案や底版直下の落差解消方法について検討するものである。今年度は収集した構造の改良案や工夫案について、事例を参考に具体的な改良方法案や工夫案を検討した。
2022(令和4)年度自主研究レポート
コンクリートブロックを活用した堰堤に関する研究
本研究は、コンクリートブロック堰堤の活用拡大に向けて、実態調査および現在の設計基準等の技術的な課題を抽出し、改善手法を提案することを目的に実施している。
今年度は、課題分析のためのブロック堰堤の損壊事例収集、整理を行った。また、ブロック堰堤の安定計算方法等について、メーカーにヒアリングし、現行の設計方法を整理した。今後、ブロック堰堤の設計に適するモデルを構築し、安定計算手法等の提案をまとめていく予定である。
FEM 解析による地すべり活動休止中の地すべり安定度と臨界安定度の予測に関する研究
本研究は、FEM 解析により地すべり移動量と安定度の関連性を分析し、段階的な地すべり防止工事基本計画を策定できるよう、現在休止中の地すべりの現状安定度とその臨界安定度を分析・予測する新たな手法を開発することとしている。
本年度は、過年度業務における FEM 安定度解析のレビューを行い、FEM 解析のメリット・デメリット等を整理した。また、地すべり発生前から滑動収束にいたるまでの動態や地下水データが取得されている秋田県横手市の地すべりを対象に一連の地すべり現象の分析を行った。
特殊・大規模な地すべりの分布状況に関する研究
将来的な地すべり対策の必要性を把握するため、代表例として兵庫県における特殊・大規模な地すべりの分布状況を分析した。
本年度は、前年度に選定した特殊・大規模な地すべり 2 地区の現地調査を実施した。地すべり活動の亀裂等の痕跡及び保全対象を整理して危険度を評価するとともに、活動の兆候を捉えやすいと思われる地点を帳票形式にまとめた。これらの成果を踏まえ「特殊・大規模地すべりの分布状況」としてとりまとめ、将来的な対応が可能性となるよう DB 化した。
降雨分布を考慮した流出解析システムの構築
本研究は、土砂・洪水氾濫対策検討等において、降雨分布を考慮した流出解析を行うためのシステム構築を目的としている。
今年度は、前年度に整理した構築方針等に基づきシステム構築を実施した。モデルは、近年の土砂・洪水氾濫対策検討における実績等を考慮して貯留関数法を採用し、流域平均雨量として気象庁の解析雨量や国土交通省の X-C バンドレーダデータ等を入力できる仕様とした。構築したシステムにより降雨条件を変化させ流出解析を行い検証するとともに、従来手法による計算結果との比較を行い、今後の課題や研究方針をとりまとめた。
新たな生産土砂量の算定の検討調査
本研究は、砂防計画における計画生産土砂量(崩壊土砂量)を適切に算定するために、近年の災害状況をもとに新たな生産土砂量の算定式を検討するものである。算定式は、降雨指標(時間雨量、土壌雨量指数)を変数とし、崩壊面積(率)を求めるものである。
今年度は、姫川流域を対象として、既往の豪雨災害における崩壊箇所(崩壊範囲)と降雨量の関係分析を行った。分析は、素因(地形・地質)の影響も考慮し、地質区分や斜面勾配階別に行った。なお、降雨指標は地域ごとの降雨レベルを一般則として表現できるよう確率年を用いた。今後は、他の流域における検討を行い、算定式の一般化に向け精度向上を図る予定である。
深層学習を用いた崩壊危険地の推定
本研究は、崩壊地の各種地形因子の画像データを深層学習により、実用上十分な精度を持った崩壊危険地の抽出・推定技術の開発を目的に実施したものである。
本研究における深層学習のアルゴリズムは、GoogLeNet を用い、判別精度について比較検証を行った。解析は、平成 29 年に発生した福岡県朝倉市の崩壊地を対象として、GIS により5mDEM データから、崩壊規模、傾斜角、傾斜方向等の地形要因と累積流量について解析を行い、GIS 上でこれらの重ね合わせ図を作成し、崩壊地及び非崩壊地画像を別途作成して深層学習の入力画像とした。これらを用いて深層学習を行った結果、未知事例に対する判別精度は、昨年度に実施した CS 立体図を用いた場合と比較して精度が向上する結果を得られた。
気象モデルを用いた既往降雨の再現に関する調査
本研究は、過去の顕著な豪雨災害を対象に、気象モデルを用いて詳細な雨量分布の再現を行い、崩壊発生や降雨流出解析などの検討の精度向上に資することを目的に実施している。
今年度は、昭和 42 年羽越災害の加治川を対象に、降雨分布を 1km メッシュ、1 時間毎に再現する気象モデルを作成した。具体には、深層学習を用いて空間方向にダウンスケーリングするモデルを構築した。そして、平成 22 年 8 月豪雨等の再現計算を行い、設定条件を整理した上で羽越災害の再現計算を行ったが、ピーク雨量の再現に課題が残る結果となった。今後は、ピーク雨量を捉えられる補正方法等を検討した上で、再現精度向上を図る予定である。
中小河川における大規模出水に起因する拡幅範囲の推定
本研究は、中小河川における過去の大規模出水時の拡幅範囲とその要因を整理し、統計的・経験的手法により今後の拡幅範囲を推定することを目的として実施している。
本年度は、主として北海道の中小河川を対象に、既往出水における降雨・流量、河道範囲、地質分布、構造物の分布、地形条件等を収集・整理した。その上で、複数時期の空中写真判読を行い、出水時の川幅の変化と各要因の関係性を分析し、今後の拡幅の予測を行った。さらに、予測結果について二次元河床変動計算を用いて妥当性の確認を行った。
火山噴火時の緊急対策工の開発に関する研究
本研究は、火山噴火等に起因する土砂災害に対して、短時間で施工可能かつ安価な緊急対策工(捕捉工等)の開発を行うものである。過年度の研究では、緊急減災計画における外力の考え方等を整理し、限られた施工期間で効率的に対策効果を発揮できる考え方を検討した。
本年度は、過年度に検討した H 形鋼を建て込む構造と他の構造について土砂・流木の捕捉の確実性、施工性などを比較評価した。また、過年度にまとめた設計外力等を踏まえ、コンクリートブロックによる緊急的な砂防堰堤の整備に関する課題等を整理し適切に効果を発揮するために必要な施設構造について検討した。
火山防災情報を活用した火山砂防担当者のフォローアップに関する研究
本研究は、全国の火山噴火に伴う防災行動の情報等が一元的に管理された情報として整理されていないことを踏まえ、火山防災情報 DB を構築し、それを活用した人材育成を図ることを目的とし実施するものである。長期的には、これらを用いて全国の火山砂防担当者への技術的なアドバイスに加え、様々な判断や防災行動を行なえる火山防災技術者の育成支援を目的とする。
研究は以下の内容と手順により実施している。①アウトプットとなる火山防災情報 DB の構成案の検討、②火山防災担当者が求める事項の把握のためのヒアリング、③火山噴火現象から防災対応にいたる各項目について過去の噴火災害時の情報収集、整理、④若手技術者への知識や経験のフィードバック(勉強会等の開催)、⑤火山防災情報 DB の構築、である。昨年度の①および②の検討に引き続き、本年度は③~⑤の検討を行った。
地震時の斜面崩壊メカニズムに関する基礎的研究
本研究は、地震動に起因する斜面崩壊メカニズムについては、降雨起因のものに比べ調査研究が十分に進んでいないことから、適切なリスク分析を行うための基礎的な研究として、斜面崩壊の形態(表層崩壊・深層崩壊・地すべりなど)に影響する地震の特性等(震度・加速度・速度・周期・継続時間・震源距離・直下型か海溝型かの違い・斜面周辺の地質構造など)の整理を行うものである。
本年度は斜面地周辺において「平成以降に震度 6 強以上を記録した地震」を対象に、土砂移動現象の実態と K-NET 等で公開されている地震動データを収集のほか、既往文献もあわせて収集した。整理・分析において各地震動の加速度スペクトルの卓越周期について整理するとともに、各観測所における震動特性について過去の複数の地震動との比較を行った。今後は、各地震の特徴や崩壊形態についてさらに整理し、加速度スペクトル以外の震動特性についても分析を行う予定である。
河床変動計算手法に関する研究
本研究は、土砂・洪水氾濫対策を検討するにあたり使用される一次元河床変動計算をできるだけ簡易に実施し、氾濫地点や氾濫範囲を推測できる手法を研究するものである。
本年度は昨年度作成した簡易な一次元河床変動計算プログラムについて、操作方法や計算条件等を記載したマニュアルを作成した。また国総研資料に記載されている河床変動計算の考え方を踏まえ、複数粒径やフェーズシフトへの対応方法とプログラム改良の方向性について調査した。
無流水渓流における構造物設置の条件
本研究は、無流水渓流における構造物の設置に関して、側岸部の処理等、設計者の判断となり得る項目について、現場状況に関する定量的な条件整理等を行い、構造物設置に関する手引き案や、建設技術審査証明事業の新規製品に対する審査の参考資料となるよう取りまとめることを目的に実施した。
本年度は、国土交通省砂防部から発出された「無流水渓流対策に係る技術的留意事項(試行案)」について、同部砂防計画課に意見聴取を行い、現時点の課題認識を把握した上で、未整理事項と整理の方向性(案)を取りまとめた。また、これらに基づき、手引き案、設計例(図面等)の策定に向けた資料収集を実施した。
砂防ソイルセメントに関する研究
本研究は、ソイルセメントの水和反応を阻害する原因を究明するものである。
ソイルセメントの水和反応を阻害するのは有機成分であるが、有機質土でも水和反応により強度発現する事例がある。つまり、水和反応の阻害要因は有機成分ではなく、有機成分と因果関係にあるものではないかという疑問から微生物に着目し、阻害要因との関係を明らかにするために、①土砂に有機成分であるフミン酸のみ添加した試料と、②フミン酸を添加した後さらに微生物を培養した試料を作成し、一軸圧縮試験を行った。その結果、有機成分による強度低下より微生物による強度低下の方が優位であることがわかった。
シミュレーション技術を用いた新規業務開発に関する研究
本研究は、シミュレーション技術を用いた業務の円滑な遂行と、新規業務を開発・提案することを目標としている。
本年度は昨年度に引き続き業務で使用しているシミュレーションプログラムの物理モデルや構成則について調査した。また流木による橋梁閉塞の被害を推定するため、京都大学と共同で水理模型実験を行い流木や橋梁の諸元と橋梁部の集積率との関係式を導き、既往の一次元河床変動計算プログラムに実装した。その他に昨年度作成した GIS 上での入出力支援プログラムを改良した。
透過型砂防堰堤の渓流の連続性を確保する機能向上方法の検討
本研究は、透過型砂防堰堤の渓流環境への負荷軽減効果(渓流の連続性を確保する機能)をさらに向上させるため、堰堤構造(底版やスリット部)の改良案や底版直下の落差解消法について検討するものである。
今年度は昨年度までの魚類の往来に着目した現地調査に加え、構造的な検討を進めるための必要条件として、対象流量や対象魚種、設定流速や水深などについて、文献等より検討を行った。また、構造の改良案や工夫案について事例収集を行った。
来年度は具体の箇所を対象に、改良方法の提案と効果、課題を確認し、より良い改良法について検討を行う予定である。