研究レポート

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2024(令和6)年度自主研究レポート

大規模土砂生産後に生じる活発な土砂流出(中長期)に対する砂防事業の効果に関する研究

台風や梅雨前線等による豪雨時に大規模土砂生産があった場合は、生産された土砂の全てが一連の降雨(短期)で下流へ流出せずに大量の土砂が山地流域に残存することが多くみられる。このため、しばらくの間、活発な土砂流出が継続し、河川区間等において河床変動が数年間続く(中期)ことが懸念される。本研究では、上記のような中期土砂流出の実態を明らかにすることを目的として、モニタリング手法やデータ分析手法等の検討を行う。
本年度は、モニタリング手法の研究として、簡易設置型ハイドロフォンの開発を行った。簡易設置型ハイドロフォンは、コンクリートブロックにプレート型ハイドロフォンを取り付けたプレキャスト構造にすることで、災害直後など早期に設置可能で設置箇所の制限を受けにくくするとともに、破損した場合も取り換えが容易なものとした。また、データ分析手法の研究として、最上川水系立谷沢川をモデル流域として、流量、流砂量、河床材料、河床変動等の実績データを分析し、大規模土砂生産後の中期土砂流出の状況を精度よく再現できる計算モデルの構築及び計算条件の検討を行った。

地すべり機構解析及び効果評価におけるCIM活用事例の検討

地すべり分野におけるCIMの活用は特に設計・施工や災害直後の状況把握などの場面での活用は進みつつある。また、地すべり機構解析及び効果評価の段階における活用も直轄地すべりを中心に進められているが、本来の機能を十分に果たしているとは言えない状況に思われる。本検討は、STCが主に関与する地すべり機構解析及び効果評価業務におけるCIMの活用方法や、行政機関及び住民説明時における地すべりCIMを用いたプレゼンテーション手法の検討を行うものである。
本年度は昨年度までの検討に加えて、①「コスト(業務量・労力)」と「効果(理解促進・業務効率化)」「CIM利用者の立場」「業務の段階」を評価軸としたCIM活用における重要な点を明確化して整理を行うための二軸図及びマトリックスを用いた検討、②CIMにおける断面的な表現であるパネルダイアグラム機能活用の検討、③実際の時間軸を想定したアニメーション(動画)表現及びコマ数等の検討、④業務着手から概成・完了までの各段階における使用目的に応じたCIMモデル要素の組合せ検討と整理を行った。

降雨分布を考慮した土砂流出解析に関する研究

本研究は、降雨流出解析の時空間分解能と精度を向上させるとともに、過去の降雨分布等を気象モデルにより推定し、降雨と崩壊発生等の対応関係を分析することで崩壊の発生や生産土砂量の算定方法を考案することを目的として実施したものである。
降雨流出解析については過年度に検討した方針に基づき、分布型降雨流出解析システムの具体的な解析処理の内容と設定項目、入出力データの種類・形式・内容等の仕様を検討した上で、上高地流域を対象に表面流、地下水、河川に関してそれぞれ1つのモデルを構築して連結させ、降雨分布を考慮した流出解析ができるプログラムを構築した。3つの降雨イベントを対象として検証解析を実施した結果、いずれのイベントに対しても実績のハイドログラフを一定の精度で表現できることを確認できた。
流出解析の元データとなる降雨分布を精度良く把握するために、全国の既往出水の降雨について気象モデルによる再現性の可否を整理した。さらに、降雨分布に基づく生産土砂量を算定するための雨量と崩壊面積の関係分析を近年の崩壊事例(九州北部、広島)において実施した。

令和6年度 地震防災に関する研究

本研究は、能登半島北部において令和6年能登半島地震が斜面に与えた影響を数値解析により分析すること及び地震時に生じる大規模な崩壊の特徴を把握することを目的として実施した。
数値解析手法による分析では、国土交通省の直轄地すべりにおける既往の地震応答解析で採用された有限要素法を採用した。解析モデルの作成は、直轄地すべり災害関連緊急事業で対象となっている7地区と、大規模な河道閉塞が生じた場所を含む範囲とした。また、解析モデル作成の基本となる入力物性値は、当該地震時に観測された実地震動が再現出来るよう設定した。構築した解析モデルにて地震応答解析を行い、最大水平加速度や最大剪断応力といった地震動の分布と、地すべり、崩壊が発生した場所との関連性を分析した。
地震時に生じる大規模な崩壊の特徴の把握では、まず崩壊の多発した輪島市、珠洲市、能登町を対象に地震後のオルソフォトを用いて崩壊地を判読した。崩壊地の判読結果より、崩壊場所の加速度や震度、標高、地質等の特徴を整理するとともに崩壊形態についても分類を行った。また、複数の河道閉塞が確認された輪島市鈴屋川流域を対象に、河道に土砂が流出している箇所の河道閉塞発生の有無と起伏量、流域面積の関係を分析した。

砂防施設配置計画に関する研究

平成30年3月に砂防基本計画が改訂され、河床変動計算を用いて砂防計画を検討することとなった。現在検討されている土砂・洪水氾濫対策計画では、計画の考え方が従来の土砂収支によるものと変化することに鑑み、本研究では、土砂・洪水氾濫対策計画で用いられている河床変動計算を用いた場合の砂防施設配置計画に関する基本的な考え方について検討することを目的として行ったものである。
本年度は、これまで実施した計算結果を総括的にとりまとめ、砂防施設の配置が流域の下流端流砂量及び流域内の河床変動に及ぼす影響を定量的に評価し、短期的な出水に対する砂防施設の効果について考察を行った。今後は中長期的な土砂流出に対する砂防施設の効果について同様に検討した上で、砂防施設配置の基本的な考え方をとりまとめる予定である。

遊砂地の手引き化に向けた検討

本研究は、土砂・洪水氾濫対策として遊砂地を検討するための手引き書を作成することを目的として実施した。
本年度は、コンクリートスリットを利用した遊砂地を計画するケースを想定して水理模型実験を行った。実験では、8つのスリット形状に対し流量を変化させながら水深・流速を計測し、計測結果をもとに流量係数を算出した。実験の結果、流量が多量になることで、従来から設計で使用されている流量係数より大きな値が得られる可能性があることが示唆された。
さらに、過年度に収集した遊砂地に関連する既往文献や研究報告について、実験条件や設計・施工上の留意点を一覧にして取りまとめた。また、全国の施工事例の詳細の位置情報や効果事例を取りまとめた。

火山噴火時の緊急対策工の開発に関する研究

本研究は、火山噴火等に起因する土砂災害に対して、短時間で施工可能かつ安価な緊急対策工(捕捉工、導流工)の開発を行ったものである。過年度の研究では、既往のコンクリートブロックを用いた砂防堰堤に着目し、鉄筋挿入による一体化を図る方法を提案し、立体模型を使用して孔の配置等について検討した。
本年度は、過年度検討した一体化を図る方法の施工性について検証するため、実寸台でコンクリートブロックを製作し、据え付け試験を実施した。製作では事前に1基あたり3箇所φ54mmの孔を開けた型枠を製作し、ボイド管を差し込んだ後にコンクリートを打設した。製作した8基のコンクリートブロックにはいずれもひび割れや欠損等は生じなかった。据え付け試験では、2段および3段積みで千鳥状に配置した。孔の位置のズレを確認した結果、最大で23mm、最小で7mm、平均14mmであり、すべての状態でφ25の鉄筋を挿入することができた。ズレが最小であった孔では、φ25とφ19の合計3本を挿入することができた。これにより、ズレが少なければ鉄筋が複数本入れられることから、よりコンクリートブロックの一体化が期待できるものと考えられた。

砂防分野におけるEco-DRR推進に向けた研究

本研究は、土砂災害リスク低減に寄与する方策の一つとして、Eco-DRR(Ecosystem based Disaster Risk Reduction)の考え方を実装できないか検討するものである。本年度は、土砂災害発生のメインフィールドが山地領域であることから、森林生態系を基盤としたEco-DRRの適用性について検討を進めた。適用に際して、現状、次に示すような課題があることを明確にした。①森林の有する土砂災害に対する効果の定量化・技術としての基準化、②森林(主として人工林)の維持管理のあり方、である。上記①について、今後の調査・研究等による評価手法・技術の発展が望まれる。制度面では既存の技術基準に限定されずに、森林生態系の有する多面的な機能を総合的に評価するような指標の制定等が必要といえる。また、上記①に関連して、土石流緩衝樹林帯の適用可能範囲を樹木の倒伏限界による評価より検討を行った。上記②について、令和6年度より森林環境税及び森林環境譲与税の制度が開始されたことも踏まえ、今後より一層、国策レベルでの適切な森林の維持管理を図るための体制を構築することが重要であると考えられる。

個別要素法を用いたコンクリートブロック堰堤の安定性照査手法に関する研究

本研究は、土砂災害の対策工事等で建設されるコンクリートブロックによる仮設堰堤の設計手法が確立されておらず、不透過型コンクリート堰堤の設計手法を準用していることから、個別要素法(DEM)を用いてコンクリートブロック砂防堰堤の安定性照査手法について検討を行っている。
本年度は、滑動・転倒安定性に着目した検討を実施した。比較検討は前年と同じ剛体堰堤モデルと個別ブロック堰堤モデルを用いた。滑動に着目した検討では、剛体モデルが土石流流速8m/sでNGとなることに対して、個別ブロックモデルは一体化されていないため、各層で滑動し、土石流流速5m/sで最も重量が小さい最上段の3個のブロックが滑動しNGとなった。また、滑動を抑制する底面突起を設けた転倒に着目した検討では、剛体堰堤モデルが12m/sでミドルサード条件NGとなるのに対して、個別ブロック堰堤モデルは7m/sで土石流流体力に抵抗するブロック塊と抵抗に寄与しないブロック塊に分離し、安定性が低下することを確認した。

※R5年度の検討では、安定性照査の第一段階である沈下安定性に用いられる底面応力について、現行設計モデル(「剛体堰堤モデル」と言う)とブロック積み堰堤モデル(「個別ブロック堰堤モデル」という)を比較検討し、剛体堰堤モデルでは底面応力が一様分布となるため上流端や下流端に生じる最大応力が、個別ブロック堰堤モデルではブロックごとに底面応力が変化し、最大応力の発生位置は条件毎に異なり、その時の最大応力が1.2~1.4倍大きくなる可能性があることがわかった。

シミュレーションに関する技術開発及び操作性に関する研究

本研究は、シミュレーション技術を用いた新規業務の提案や既存業務の生産性改善のため、新規プログラム開発および既存シミュレーション技術の改良についての研究を行うものである。今年度は、昨年度開発したHLL法による一次元河床変動計算プログラムを改良し、複数粒径対応、土石流・掃流状集合流動における複数の侵食・堆積モデル、浮遊砂の非平衡計算、摩擦速度と沈降速度の比もしくは粒径を指定することによる細粒土砂の液相化(フェーズシフト)等の機能を実装し、単純斜面および実地形による試算により、コードのチェックと各土砂移動モデルの特徴把握を行った。また既存の一次元・二次元New-SASSプログラムの入出力を支援するツールの開発・改良を実施した。

令和6年度 火砕流モデルの高度化と融雪型火山泥流モデルへの応用

火砕流の到達範囲を決定する2つのメカニズム(上部低濃度流の低密度化による離陸、および、下部高濃度流の堆積による消滅)を統一的に評価可能な準2次元二層浅水流モデル(志水・小屋口 2022 JpGU)に対し、ピナツボ1991年観測データとの比較に基づいた妥当性確認を行った。本噴火は火砕流・噴煙柱・傘型噴煙を同時形成した複雑な噴火様式であったため、多様な観測データに基づく既存研究結果と矛盾のない噴火条件を設定した数値シミュレーションを行い、本モデルが実際の火砕流堆積物の厚さ分布を概ね再現できることを確認した(Shimizu & Koyaguchi 2025 JpGU)。また、本火砕流モデルを、浅間山を対象とした噴煙柱崩壊型火砕流による融雪型火山泥流シミュレーションに応用し、シナリオ検討を行った(酒井・志水・堀田 2025 砂防学会)。適用された融雪型火山泥流の土砂動態モデルは、上層乱流領域と下層層流領域の二層からなる泥流モデル(酒井 2024 JpGU)であり、従来広く用いられている洪水流(掃流砂・浮遊砂)モデルや、細粒土砂の液相化(フェーズシフト)を考慮した石礫型土石流モデルとは定性的に異なる。今後、従来の火砕流起源融雪型火山泥流モデルから高度化された点を明確化し、さらなる発展に繋げたい。

土石流・土砂流に対する二層浅水流モデルの比較

本研究では、土石流・土砂流の数値モデルに内在する不確実性の評価に向けて、一層浅水流モデル(宮本・伊藤2002)と二層浅水流モデル(高濱ら2004)の基礎方程式導出過程を整理・比較した。保存式については、一層モデルが流動深全域を鉛直平均化して得られる断面平均流速を取り扱うのに対し、二層モデルは水流層と砂礫層を分離し、層間のせん断応力や質量移動を考慮することで流速の鉛直分布をより詳細に表現できる枠組みを提供している。抵抗式に関しては、いずれも理想化された流速鉛直分布を仮定して導出されているが、動的せん断応力やクーロン摩擦応力に関する抵抗係数の非物理的挙動への対応方法に違いが見られる。侵食堆積速度式は両モデルとも江頭の式に基づくが、二層モデルにおいても層厚比を用いた一層的な近似が採用されている。これらの整理により、両モデルの主な違いは保存式に、共通点は抵抗式および侵食堆積速度式に現れることが明らかとなった。今後は、これらの整理をさらに深めた上で、モデルに導入されている仮定や近似が数値結果に与える影響の定量的評価を目指す。

鋼製砂防構造物DBのweb-GISプラットフォーム研究

本研究では、近年インターネット上で利用できる地図情報システム(web-GIS)の活用が進んでいることから、鋼製砂防構造物DBのweb-GISプラットフォーム化について検討した。
まず、web-GISの活用事例について、インターネットで公開されている、国、都道府県、民間会社の情報提供事例を収集・整理を行った。近年はweb-GISの3D技術が進展しており、例えば東京都が公開している「東京都デジタルツイン3Dビューア(β版)」のように3D地図に3D構造物モデルを表示する方法などが開発されており、そのプラットフォームに静岡県の砂防堰堤の3D構造物モデルが登録されており、その情報を活用することが可能となっている事例があった。
STCでは砂防鋼構造物研究会の鋼製砂防構造物データベースの管理を移譲されていることから、このDBの3D化について検討した。東京都デジタルツインで使用されているCesium GS社が提供する「CESIUM ion」等を利用すると施設の位置等の情報を3D地図に表示することができるが、現在のDBでは構造物の形状などを登録していないため、3D地形モデルに3D構造物を表示することができず、今後の活用に向けてDBに登録する情報として構造物の形状や3Dモデルなどを追加することが考えられる。
現時点では、有償のサービスであり費用対効果の面から導入が困難であると考えるが、将来的には広報活動だけでなく、維持管理の面からもweb-GISに対応する必要があると考えており、今後も継続して情報収集を行っていく。

ネット系構造物の恒久構造物としての手引きに関する研究

本研究は、砂防堰堤工事中の応急対策等に用いられるネット系構造物について、土石流対策(恒久構造物)としての適用性を確認する基礎検討(基礎調査、土砂捕捉事例の収集・分析による機能・性能の整理)を行った。
基礎調査では、ネット系構造物の構造種類(分類)等についてweb調査を行った。その結果、基礎構造は主にアンカー基礎、杭基礎、コンクリート基礎の3種類に分類され、捕捉面の構造は、主にワイヤーロープやネット(被覆金網)、リングネット等を用いて、捕捉面の変形(ブレーキリング等の緩衝材)によって衝撃エネルギーを吸収する機構が採用されていることが分かった。
ネット系構造物の機能・性能については、現地調査及び土砂捕捉事例の収集(メーカーへのヒアリング)・分析を行って整理した。その結果、ネット系構造物は捕捉面の変形によって衝撃エネルギーを吸収する性能と土砂を捕捉する機能を有するが、恒久構造物として土石流対策への適用を検討した(鋼製透過型砂防堰堤を比較対象とした)場合、①土砂捕捉前後で捕捉高さが変わってしまうこと、②捕捉面が変形するため後続の土石流の衝突エネルギーを吸収しきれない可能性があること、③洗堀によって基礎部が露出し耐衝撃性や堆砂圧等の静荷重に対する耐力が低下する恐れがあること、といった課題があることを確認した。

透過性を有する応急対策技術の開発検討

本研究は、土石流・流木対策として活用可能な新しい応急対策技術を開発することを目的として実施した。
本年度は、過年度に立案した水理模型実験の実施方針に準じて詳細な実験行程を検討し、新しい応急対策技術の耐荷性能および捕捉性能に関する水理模型実験を行った。実験の結果、土石流を捕捉する構造物について、透過性を有する部分の比率が大きいほど、耐荷性能・捕捉性能が向上することが確認できた。また、満水時もしくは越流時において、特に構造物が不安定化する傾向があることが示唆された。

渓流環境に配慮した砂防堰堤等に対する既設工法の実態整理

本研究は、令和4年度まで実施していた「透過型砂防堰堤の渓流環境に対する効果に関する研究」で確認された3つの課題点、①堰堤直下の落差、②スリット部の高速流、③底版や水叩き上の浅い水深の解消を目的に青森県内の既設堰堤に施されている工夫の実態を整理した。
事例調査は砂防施設点検台帳の写真や構造図を用いて実施した。常時流水のある施設を対象に調査した結果、常時流水がある透過型砂防堰堤57基のうち工夫がみられた施設は15基あった。
落差に対する工夫では、主に魚道により対策されていた。スリット部の高速流に対しては、スリット部底面等へ礫を設置している工夫があった。底版や水叩き上の水深の確保では、水叩き上に溝や壁を設置して水深を確保する工夫があった。
本研究により確認された事例のいくつかは構造図に記載されておらず現地写真からのみ確認できた例もあり、工法自体や工法の考え方等がわかる資料が残っていない可能性が考えられた。このため、今後、既往の工夫をさらに発展させていくためには、工夫の有効性について検証することとともに、過去の事例についてさらに調査して考え方等を資料としてまとめていくことが必要と考えられた。

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